今回は、痔瘻に対しての痔瘻根治術について現在の渡邉医院の標準的な手術方法をお話したいと思います。
痔瘻根治術を行う時に大切な相反する要素があります。それは、根治性と機能温存です。根治性を追求すると機能温存が失われる。反対に機能温存を追求すると根治性が失われる。この相反することをしっかり考えながら、患者さんにとって最も良い手術を行っていくことが求められます。
痔瘻根治術は基本的に二つの手術に分けることができます。それは瘻管切開(fistulotomy)と瘻管摘出(fistulectomy)です。
瘻管切開(fistulotomy)
瘻管切開は、瘻管の前壁を切開して開放創にして、後壁は残しておく手術です。
長所:①手術手技が簡単明快で、手術時間が短い
②根治性が高い
短所:①瘻管上の皮膚、筋肉、結合織などの全ての組織が開放創となる
②連続した溝状の瘢痕を残す
③部位や深さによって、機能障害をおこすことがある
④瘻管を通すゾンデで偽瘻管をつくる可能性がある
適応:炎症が強く残っている場合
Ⅰ型やⅡ型の比較的浅い痔瘻
瘻管摘出(fistulotomy)
瘻管摘出は、痔瘻の二次口から切除し、原発口に向かって瘻管を切除摘出していきます。
瘻管摘出にはcoring out(くり抜き法)と瘻管を摘出したあと開放創にしたり、肛門管内を縫合閉鎖する方法などがあります。
長所:①瘻管を覆っている組織が温存され、連続した溝状の瘢痕を残さないため、変形や機能障害が少ない
②筋肉と瘻管の走行が解りやすい
短所:①瘻管の炎症が強い場合、組織が脆弱でちぎれやすい
②手術時間がかかる
③再発の可能性が瘻管切開より多い
適応:括約筋切断による機能障害を起こす可能性がある場合。
Ⅲ型の痔瘻に対して。Ⅱ型でも前方や側方の痔瘻。
このように瘻管切開と瘻管摘出には長所短所があり、それらを良く理解してどういった
手術を行うことが最も良いのかを判断する必要があります。
渡邉医院の基本的な痔瘻根治術
渡邉医院では、基本は瘻管を摘出して、創は開放創にする手術を行っています。
では実際にはどのように手術を進めていくのかをお話します。
1) 二次口周囲にメスを入れ、瘻管を摘出する切り出し部分をつくる。
2) ハサミやメスで瘻管をくり抜くように瘻管を剥離していく。
3) この際に創の両側をコッヘルで挟み、両側に広げ、肛門外に引き出すように引っ張ると、原発口がはっきりと確認でき、瘻管を剥離切除していく部分が解りやすくなります。また二次口部分を把持しているコッヘルを引っ張ると、原発口がへこみます。このことでも原発口の部位の確認ができます。
4) 原発巣、原発口を残さないように切除します。最近ではあまりしていませんが、側方や前方の痔瘻の場合は肛門管内は縫合することがあります。
瘻管を摘出切除した後は、出血の有無を確認して、出血している部分は止血していきます。バイポーラによる凝固止血で十分に止血可能です。
シートン法という痔瘻を輪ゴムで治していく方法がありますが、これは二次口から原発口にシートン法用の輪ゴムを通して徐々に徐々にゆっくりゆっくり絞めていって瘻管を切開する方法で、ここでいう瘻管切開の一つの方法です。
このように渡邉医院では痔瘻に対しては、基本的には瘻管を摘出して開放創にしています。そして必要な部分は縫合したり、場合によってはシートン法を加えながら、さまざまな方法を組み合わせて手術をしています。
次回は裂肛の手術についてお話しようと思います。